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ココロの森

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第3話(NEW)



    第3話  飛行機の中で旅行計画



  アリタリア航空の機内は、わりあい快適であった。
 もちろんエコノミークラスなのだが、シートの座り心地も悪くないし、
 何よりも私達の座席がスクリーンの目の前だったので、
 足がゆったり伸ばせたのが機内で楽に過ごせた要因である。
 それにスクリーンの裏はトイレだから、いつ空いているか一目瞭然。
   空いている隙にさっと行けて、狭い通路に並んで待つ必要もない。
 14時間の空の旅では、こういう細かいことが快適に過ごせる大きな要因になるものなのだ。

  そうそう、それともうひとつ、快適要因として忘れてはならないのが
 『アリタリア航空特製・機内靴下』のサービスである。
 これを発見したときは、たいそう嬉しかった。
 早速靴を脱ぎ、そのグリーンの靴下に履き替える。
 踵の部分をきちんと作っていない、フリーサイズの靴下なので、
 長く穿いていると微妙にずりさがってきたりして少々履き心地は悪いが
 それでも靴を脱いだ解放感と足を伸ばせる満足感で
 『う~ん、天国天国♪』である。
 特にスクリーンの下の壁にかかとをつけ、足のうしろ側の筋を伸ばすとラクチンだ。
 かなりお行儀の悪い格好なので最初は抵抗があったのだが
 次第にそんなことはどうでもよくなり、
 この限られたスペースの中で、いかに楽な姿勢をとるかで必死になってくる。
 映画の上映で機内が暗くなったときなんぞ、これ幸いと
 スクリーンの下のラインのギリギリまで足を上げ、シートを倒し
 まるで「V字バランス」の様な格好になってねそべっていた。

  以前は国際線機内でこんな格好の乗客を見かけると、眉をひそめたものだったが
 この席に座ってみて、初めてわかった。
 こんなことが出来るのは、この席だけの特権なのだ。
 横の人に迷惑さえかけなければ、ついやってみたくなってしまうのだ。
 これからの私は、この『V字バランス客』に出会っても 
 にっこり微笑むことが出来ることだろう。

  藤紫、28歳。 オバサンへの第一歩かもしれない。

  しかし私の隣のこのオンナは、26にして私より先にこの『V字バランス』体勢を発見し
 「あ~!この姿勢、すっごいラク~♪
  藤紫さんももっとこう、足をあげてみたらどうですかぁ?」
 と御満悦である。

 やまだ花子、26才。
 彼氏イナイ歴がついに26年目に突入し今尚記録更新中なのは 
 このあたりに根本的原因があるのではないかと思われる。


  根はいいヤツなのに、不憫である。


  飛行機はシベリア上空を飛び続けている。
 私はスパークリングワインを味わいつつ、
 (アリタリア航空では、エコノミークラスでもスパークリングワインのサービスがあるのだ)
 やまだはミネラルウォーターを飲みながら
 イタリア6日間の日程表の作成にとりかかった。


  そう、驚くべきことに 私達はまだ詳しい旅行日程を決めていないのである。


  もちろん、“おおまか”なものは決めてある。
 しかし、それも私が一人で計画したものだ。
 本当はその“おおまかな日程”をお互いに決めておき、
 出発前それを突き合わせて最終決定するはずであった。
 ところが、相手は一筋縄ではいかない地球外生命体やまだであるから 
 いつまでたってもなあーんにも決めてこない。
  それどころか
 『ガイドブックなんかいらない』と出発30日前までのたまっていたくらいだし
 (結局 無理矢理買わせたけれど)
 行きたい場所も
 『藤紫さんにお任せしますぅ~』の一点張り。


  ___とてもとても今回の壮大な計画を打ち立てた張本人とは思えないお言葉である。


 「でも、何処かここだけは見たいってとこないの?折角行くんだからさ」
  と問えば
 「うーん、でも藤紫さんが見たいトコと大体同じだから」


  ・・・そんなわけで、私はガイドブックとにらめっこしながら
 見たい作品のある場所を調べ、行きたいところをリストアップし、開館時間と料金を調べ、
 それを近いエリアごとに6グループにまとめ上げる、という作業を
 まる3日間、出発の迫った時期にたったひとりでしぶしぶ行った。

  その、ほぼカンペキなコース設定を見て、やまだは言った。
 「すごーい!!!藤紫さん、かんぺき~!旅行会社に就職できますよぉ!」

   ・・・。
   ありがとう。キミにはつくづく恐れ入る。


  あとは各コースの疲労度や見たいもの優先で見学順序を微調整し
 6日間の日程に上手く当てはめていくだけである。
 ホントは出発前に、ここまでやっておきたかったのだが、
 『そんな細かく決めても、どーせ予定通りにいかないんだから
  その日の気分で決めましょ♪』
 というやまだセンセイの一言で却下されてしまった。
 しかし、そんな無謀なことが、このやまだとの2人旅で出来ようか?
 ただでさえ予定を狂わせっぱなしのいい加減オンナとの二人旅でそれは無謀だ。
 そこで私はローマへの飛行機の中での打ち合わせを進言したのだった。
 14時間のフライト中は特にすることもなく、時差ボケ予防のために寝てはいけないから、日程をを決めるのにはもってこいだ。
  「あ、それ、いい考えですね。賛成~!」
 ・・・というやまだセンセイのひとことで 
 我々はイタリア旅行の日程をシベリア上空で決定することになった。

  白熱化した討論の結果(周囲の寝ていた皆さん、スイマセン)
 見事な日程表が完成した。

   1日目 ボルゲーゼ美術館とコロッセオなど。全4ヶ所
   2日目 ナヴォナ広場周辺 4ヶ所
   3日目 ヴァチカン市国(主に美術館)
   4日目 ヴァチカン市国(それ以外) ←予備日を兼ねる
   5日目 フィレンツェ (ウフィッツィ美術館他3ヶ所)
   6日目 バルベリーニ広場周辺 4ヶ所
   7日目 美しい想い出を胸に、日本へ帰国


    素晴らしい。カンペキだ。

 混雑状況や身体の疲労度、お土産を買う時間など
 総て考慮に入れたこれ以上ない日程表である。

 ノープロブレム。 私達でも、やれば出来るのだ!



                   第4話『イタリア時計事情』につづく 


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